愛着 

昨日の出来事。

傘の柄に名前を彫っていただきたいのですが・・・
工房へ来ると、1本の留守電が入っていました。

急いでお知らせいただいていた携帯に電話を掛けると、すでにこちらへ向かっているとの
こと。
聞けば車で三時間は掛かる遠方から態々車を走らせてくださっている。

「お預かりして後日お渡しと言うことでもよろしいですか?」の問いに、
「ご無理を言ってすみませんが、今日中、1時間程で出来ませんか?」との返事。
傘の本数は五本。五人家族分の名前を彫ってほしいらしい。
時間はギリギリ、いやもう少し掛かるかもしれない。あぁ、難しいかも。

「まずは見せてください。話しはそれから・・・」
取り合えず、用件だけ伺って電話を切りました。

一時間後、優しい笑顔の男性が工房を訪れました。
人の心を動かすのも、やはり同じ人の心。
お忙しいご事情、遠くから来てくださったことを考えるとお断りできず、
お人好しとも思える自分を少し反省したり・・・複雑な心境な私。

「1時間後には彫り上げます。それまで暫くお待ちいただけますか?」


色々言う余裕があるのなら、お客様のためにもまずは彫ろう!
既に研いで準備をしていた鑿を持ち、早速彫り始めました。


刻々と過ぎる時間と共に、真っ黒に塗装された傘の柄には、
真っ白な名前が次々と浮かび上がっていきました。
さながら木版画の様な仕上がり。
自分で彫っておきながら「何て粋なんだ。格好良い。」と呟きながら鑿を進める私。

予定の10分前には彫り上がり、丁度工房へ再度来てくださったお客様にお渡しできまずは
一安心。

「こちらです。木版画の様な仕上がりになりました。素敵だと思うのですが・・・」と私。
「素敵です。世界に一つだけの傘になりました。ありがとうございます。」男性の顔がパァッと輝きました。

良かった・・・

ご本人もおっしゃる通り、それはお世辞にも高価な傘ではありませんでした。
でも、こうして名前を入れることで、その傘への愛着は想像以上に深まるものなのかも
しれません。

そんな粋な贈り物をしていれる旦那様+お父さんを持った家族を想っては、
幸せのお裾分けをもらったようで、私の心まで温かになった出来後でした。


今日の午後から鹿児島では雨が降るとの予報。
昨日名前を彫ったあの傘たちは、今日がデビューの日なりそうです。
間に合って良かった。